韓国映画

映画「パラサイト」解説 ハリウッド映画と逆の展開、王道から外れているからこそ面白い

注意:
以下の文章には、映画「パラサイト」のネタバレが含まれています。これから映画をご覧になる方が読まれますと、映画の面白さが激減してしまう恐れがあることをご留意ください。

映画「パラサイト」。ジャンルはブラックコメディというから、さぞ面白いのかと思って観たら、予想外の展開でした。

大笑いさせておいて、最終的にとんでもないところへ連れて行き、そこに放置して、終わるのですから。

構成からしてブラックコメディ。さらには、人物設定やストーリー展開も王道とはまるで真逆。

そんな映画「パラサイト」の解説です。

登場人物の設定からして王道とは真逆

ポン・ジュノ監督や、主演のソン・ガンホ氏は、「パラサイト」を「非常に韓国的な要素が詰まった作品」だと述べています。

にもかかわらず、世界中の国際映画祭の200を超える賞を受賞したほか、非英語による映画では初めてのアカデミー作品賞まで受賞しました。

多くの国々で、興行が成功しているのは、パラサイトが描く「格差社会」が、世界中の国々で抱えている問題だからでしょう。

「パラサイト」が面白いのは、
格差問題を描く際、韓国ドラマなどにありがちな

  • 貧しい人= 人格者、がんばっているけど報われない人、被害者
  • 裕福な人 =不道徳な人、搾取する人、加害者

と、位置付けていないこと。

あるシーンでは、
貧しいギウ一家の方が「ずる賢く、卑怯」で
裕福なパク一家は「純真でお人好し」に見え、

また別のシーンでは、
貧しいギウ一家は、「心優しく」
パク一家は「非情」にも見えます。

善悪のジャッジをしていないからこそ、
余計に「格差社会」の複雑さや闇が浮き彫りになっています。

ハリウッド映画によくある展開と見せかけて・・・

パラサイトの前半は、ハリウッド映画かと思うほど、愉快で軽快でした。

「ハリーポッター」や「アラジン」などでおなじみの冒険物語、いわゆる「ヒーローズジャーニー」的にストーリーが進んでいくからです。

日常世界(半地下住宅で、家族といつもと変わらぬ生活を送っている主人公ギウ)

冒険への誘い(友人ミニョクから豪邸に住む女子高生の家庭教師を頼まれる)

賢者との出会い(妹キジョンの協力で、無事パク家に家庭教師として就職)

小さな試練&克服を繰り返す(嘘を重ね、ギウの家族が一人ずつパク家に就職)

最も危険な事に遭遇(パク家の元家政婦とその夫に、ギウ一家の嘘がばれる)

最大の試練に直面(主人留守中に豪邸で宴会。突然帰宅。豪雨の中、豪邸を脱出し、半地下へ)

ハリウッド映画なら、最大の試練を乗り越えると待っているのは、「最高の報酬」ですが、鬼才ポン・ジュノ監督の作品は違いました。

報酬どころか、一見うまく行っていたことがすべて強制終了されてしまします。

映画の主人公のみならず、観客もハシゴを外された気分。次の瞬間、「最初からそもそも間違っていた」ことを嫌というほど、思い知らされます。

そう、ミニョクからのオファーは「冒険への誘い」ではなく、「闇への誘い」だったのです。

スタートは日常世界 

半地下住宅で、家族といつもと変わらぬ生活を送っている主人公ギウ。
この時点では、これから何が起こるかなど、誰も予測すらしていません。

「冒険への誘い」ではなく、「闇への誘い」

友人ミニョクから豪邸に住む女子高生の家庭教師を頼まれた時、ギウは一瞬躊躇する。なぜなら、自分は大学生ではないから。

その時点で断ればよかったのに、断らなかったのは、高給という理由以上に、裕福で、頭が良い上、容姿まで整ったミニョクに、自身の能力を買われたような気がしたから。

間違った方向へとひたすら突き進む

妹キジョンが偽装した在学証明書を携え、高台にあるパク一家の豪邸へ面接を受けにいくギウ。
最初こそ「ミニョク先生レベルじゃないと・・」と、気にくわない様子のパク社長の妻ヨンギョも、ギウの授業を見て、一発ノックアウト。

ヨンギョにも認められたギウは、ますます自信をつける。まるで、ミニョクと同じ位置に立ったかのように。

見せかけの成功を次々成し遂げていく

純真でシンプルなヨンジョを騙し、妹のキジョンまでもを家庭教師としてパク家に就職させたギウ。

ミニョクと両思いだったはずの教え子ダヘもどうやら自分に気があるらしいことを知り、ギウはますます自信をつけていきます。

さらには、無職だった父と母までもが、パク家の運転手と家政婦に。

家族全員、裕福なパク家に就職し、夕食に焼肉を食べることができるまでになったギウ一家。

良かった流れに変化が。情勢が悪くなる

嘘をつくことへの迷いや罪悪感はなくなり、見せかけの成功へと一直線!とか思いきや、矛盾は必ず正されるようになっているのでしょう。ある日、流れが悪くなります。

パク家で長年家政婦として働くも、ギウ一家のせいでクビになったムングァンと、パク家の地下室にこっそり住み続けていたムングァンの夫クンセに、すべてバレてしまうのです。

ギウ一家とムングァン夫婦の小競り合いの末、ムングァンは頭を打ち、死んでしまいます。

強制スイッチが入り、一瞬にしてすべてが終了

どうなったかは、映画をご覧になった通りです。

冒頭、ハリウッド映画によく出てくる展開かと見せかけて、思いもよらぬ方向へとストーリーが進んで行きます。

しかし、実はこの流れ、私たちがダークサイドに陥った時の事態と、どこか似ていませんか?

本当はわかっているのに、気づかぬふりをして、誤った方向へと進んでいくと、大抵は最後に待っているのは悲惨な状況です。

でも、これをも、ヒーローズジャーニーの「最大の試練」に置き換え、その試練を乗り得れば、最後の最後に、素晴らしい報酬が待っているかもしれません。

「パラサイト」登場人物の設定も王道と真逆

「パラサイト」は、格差社会を描いた映画ですが、韓国ドラマなどでよくあるような

  • 貧しい主人公 = 人格者、がんばっているけど報われない人、被害者
  • 裕福な人たち =不道徳な人、搾取する人、加害者

とは異なり、貧しいギウ一家の方が悪、裕福なパク一家の方が善に見えることもあれば、ある場面では、その逆に見えることも。

単純ではないからこそ、格差社会の闇や複雑さがより迫ってきます。

ギウはあの豪邸を購入することができるのか?

主人公のギウは、いつか豪邸を購入し、豪邸の地下室に隠れ住んでいる父を地上へと連れ戻すことを心に誓い、映画は幕を閉じます。

衝撃の結末を迎えた中、私が一番気になったのは、
「ギウは、この先もギウのままなのか? それとも人生大逆転があるのか...?」
ということでした。

つまり、ギウは、一生半地下生活のまま人生を送るのか、それとも、あの豪邸を購入することができるのか?

ポン・ジュノ監督は、「ギウの今の所得を計算すると、あの豪邸を購入するには500年かかる」とインタビューで語っています。

現状のままだと、今世、ギウはあの豪邸を買うことができず、半地下暮らしのまま、
そして、父のキテクは半地下のさらに下にある地下で、人知れず暮らし、そして死んでいく、、、ということです。

「見せかけの成功」という名のダークサイドから抜け出し、ゼロベースに戻ったギウ。
彼はこの先、父を地下から地上に引き上げることができるのでしょうか?

この日は、「豪邸を購入せずとも、連れ出す方法がある」ことに彼自身が気づいた日がもしれません。

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